診断士の視点

福井県の農業は窮地に立たされている

2017.04.13 投稿松田 博史

福井県の農業は窮地に立たされている

福井県の農業は窮地に立たされている

 福井県の農業就業人口は2005年には36,131人だったが、2015年には18,512人と10年間で約半減している。
また、世間で少子高齢化が問題になっているが、農業においては更に深刻化している。
特に福井県は全国的に見ても顕著になっており、農業従事者の79.4%(全国平均65%)が65歳以上である。
それに伴い、耕作放棄地も増え続けている。安心・安全な食を支える国内農業であるが、今後その存続すら危うい状況なのは明らかである。

 今回、診断士協会の農業ビジネス研究会コーディネートのもと、農業をビジネス化している2つの企業を視察した。
 1社目は小浜で青ネギを生産している「合同会社若狭こすもかんとりー」である。
大型ハウスが14棟並んでおり、なかなか壮観である。
これだけの設備費用をどこから捻出したのか?と疑問に思うが実はリースである。
JAがハウスを整備し、事業者にリース方式で貸し出しているのである。
創業・新事業は、まずは試験的に小規模でスタートし徐々に大きくしていく、というのがセオリーだが、農業においてはそれがなかなか通用しない。
小規模で始めてもなかなか利益が出ず、早期に断念するケースが多い。
JAが“大きな箱”を建てることで、早期に事業化できるメリットがある。
社長も「JAさんのおかげ」と、とても感謝している様子だった。
 同社ではハウスにおいて水耕栽培を行っている。
土耕の場合、トラクターや専用の農機具を使うのが定番だが、そのような設備は一切なく、代わりに大きな水槽や暖房設備が並んでいる。
農業というと長靴のイメージだが、私たちはスリッパに履き替えてハウスに入る。
とても新鮮な感覚であった。
水耕栽培は水を循環させる性質上、病気がすぐに広がる為、外から何かを持ち込むのを嫌うのだと言う。
生産工程としては播種・育苗・植え付け・収穫だが、水耕栽培だからこそ手作業が多いように感じた。
収穫後は調整作業(皮むき、洗浄、選別、袋詰めなど)があるが、JAが他事業者分も合わせて一括調整している。

 2社目は高浜でミディトマトの“越のルビー”を生産している「合同会社ながの農園」である。
こちらも大型のハウスが並んでおり、前社と同じくJAからのリースである。
中に入ると家庭菜園で見かけるミディトマトとは違い、受光性をよくするために3mを超える高さに吊られたトマトが杉垣のように整然と並んでいる。
 温度、湿度、CO2、採光など細かな管理に驚かされたが、何より代表の農業への思いに驚かされた。
「このような先端設備で生産していても農業であることに変わりは無く、決して儲かる仕事でも華やかな仕事でもない。
そうは言っても「国産」を必要としてくれる人がいる。
「国産」を守るためにも、ビジネスとして成り立たせるにはどうするのか?を考えていかなければいけない。
その答えの1つがこのような大規模な生産方法であり、ビジネスモデルとして全国に広げていかないと農業に将来は無い」と熱く語っていただき、共感を覚えた。
 販売であるが、2社とも直販は行っておらず、JAが契約した価格で買い取って卸・小売へ販売している。
農業は一般的な製造業と違い、受注生産どころか見込み生産も出来ない。
需要に関係なく出来た分を売るしかなく、だからこそ価格が安定しない。
決まった数量を安定した価格で販売できるのは、生産者にとってとてもありがたい事である。
収支計画を立てられるのはビジネス化において重要なポイントである。

 農業のビジネス化における課題は大きく3つある。
1つ目は多額の設備投資、2つ目は生産ノウハウ習得、3つ目は販路の確保である。
今回の2社においてはJAが全面的にバックアップし、これらの課題を極力軽減している。
この形を1つのビジネスモデルとしてパッケージ化することで、福井県の農業の活性化につながるのではないだろうか。
また、日本の高品質の農業を残すために、中小企業診断士としては県市町やJA、農家組合などへ働きかけをしていく必要があると考えさせられた。
今回視察した農業はもちろん、林業・水産業においても中小企業診断士のコンサルティング能力が発揮されるのではないだろうか。

  • 小浜の「合同会社若狭こすもかんとりー」
    小浜の「合同会社若狭こすもかんとりー」
  • 合同会社若狭こすもかんとりー
    合同会社若狭こすもかんとりー
  • 合同会社若狭こすもかんとりーのハウス内
    合同会社若狭こすもかんとりーのハウス内
  • 高浜の「合同会社ながの農園」
    高浜の「合同会社ながの農園」
  • 合同会社ながの農園で栽培されているトマト
    合同会社ながの農園で栽培されているトマト
  • 合同会社ながの農園の代表者
    合同会社ながの農園の代表者