地方における観光の中心は~文化を知る・体験する~物語り
昨年秋に、福井県中小企業診断士協会の県外視察研修で、長崎市を訪問し、その際に県北部にある佐世保市と平戸市を合わせて訪れました。
長崎県には、旧グラバー家住宅や軍艦島に代表される「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」と大浦天主堂をはじめとする「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の2つのユネスコに登録される世界遺産があり、平戸市を訪問の際に、世界文化遺産の構成遺産には入っていませんが、平戸市にある「田平天主堂」を訪れました。
平戸に行ってみたいと思ったきっかけは、長崎県出身の遠藤周作の小説「沈黙」を映画化した「沈黙―サイレンス」を見て、日本で実際に行われたキリシタン弾圧や、なぜ当時信仰が必要であったのか、などについて関心を持ったからです。
日本人の多くは、特定の宗教を信仰しておらず、教義にしたがった生活というのも理解しがたいと思いますが、東南アジアの各国を訪問すると、イスラム教の生活や小乗仏教の考え方などについて知る機会があり、ダイバーシティ&インクルージョンが必要とされる現代において、多様な宗教を知ること、理解することへの重要性が高まっていると感じます。
さて、今回、田平天主堂を訪問しようとネットで情報収集を行っていた中で、まず、訪問にあたっては予約が必要であること(入場制限を行っている)や見学にあたってのマナーが詳しく説明されていることで、この場所が「観光地ではなく、地域の人たちの生活場であり祈りの場」であることを再認識しました。
観光地であれば、「入場料をいただいてできるだけ多くの方に来ていただこう」という形式になるのかもしれませんが、この「文化遺産」というのは、「潜伏キリシタン」の暮らしや伝わる文化を通して、地域を知っていただきたいというメッセージを感じるものでした。
この田平天主堂も、観光施設ではないので入場料はかからず、また、地域の人たちの生活の場であるので天主堂の内部は撮影禁止となっていました。その代わりに、天主堂内部やステンドグラスを映したポストカードが100円で販売されていて、それらが施設維持のために使われています。
このような地域の皆さんにとっては、観光客が押し寄せてお金を消費することよりも、地域の生活を守っていくことに価値があり、その価値を理解し伝えていくことが、地方における「観光」の在り方ではないかと強く感じました。
平戸市文化交流課が作成している「平戸の世界遺産を巡る!周遊マップ」には、平戸市内の「キリスト教関連遺産のおすすめドライブコース」や「平戸・キリスト教布教の歴史」が紹介されていて、飲食やお土産など消費に関わる紹介が一切掲載されていないことにも、平戸市の皆さんにとってキリスト教関連遺産が観光消費拡大よりも地域の歴史や文化に関心を持っていただくための機会を増やしたいという思いが伝わってきます。
また、平戸を治めていた松浦(まつら)家に伝わる調度品や武具、絵巻物を、松浦家の私邸とともに公益財団法人化して「松浦史料博物館」として公開されていますが、展示物の中には、キリシタン弾圧に関する資料や絵図も展示されていて、潜伏キリシタンに関する双方の資料を知ることができる貴重なものとなっています。
長崎市の長崎奉行所跡に建てられた「長崎歴史文化博物館」には、県が所蔵する文化財だけでなく、広く県民から集められて展示されている品々もあり、長崎の文化や生活を紹介する貴重な資料となっています。
福井県では、戦災と震災によって多くの文化財や資料が消失してしまいましたが、各ご家庭に残る歴史や文化、生活を伝えられる品々を集めて紹介する取り組みも必要ではないかと感じます。
生活といえば「食」も重要な要素であり、観光目的の大きな割合を占めていますが、食の体験も含めてその生まれてきた背景を知ることで、その地域への興味が沸いたり、親しみが持てたり、生活そのものへの理解が進んだり、といった効果をもたらすものではないでしょうか。
今回の訪問で、改めて、地方における観光とは、歴史、食、景観などの単発の見所ではなく、地域の文化を知り、体験する機会が必要で、生活と共につなげていく「物語り」が関心を高めるのではないかと、強く感じました。
ぜひ、皆さんの地域でも、素材を掘り起こし、繋げて物語化する取り組みを行ってはどうでしょうか。