診断士の視点

九州の三セク「おれんじ食堂」の魅力

2016.07.04 投稿峠岡 伸行

九州の三セク「おれんじ食堂」の魅力

おれんじ食堂の体験

 先日、鹿児島を訪問することがあり、九州新幹線開業で三セクに経営が移管された「肥薩おれんじ鉄道」に乗車してきましたので、その体験を紹介させていただきます。
 2004年に熊本県新八代から鹿児島中央間の九州新幹線開業により、八代駅から鹿児島県の川内駅間の約117kmがJRから切り離され、鹿児島県と熊本県の出資による第三セクターで経営を引き継ぎ、現在上下線とも1日約20本が運行されています。
 福井県では、北陸新幹線の敦賀までの延伸に向け工事が進められていますが、新幹線開業時には、現在の北陸本線が並行在来線としてJRから切り離され、福井県を中心とした第三セクターで運営することがほぼ決まっており、将来の福井県でも三セク会社運営に向けても県外での事例情報の収集が今後求められていくと考えられます。
 ですから、福井県の診断士協会メンバーの皆さんも関心を持っていただき、東北や北陸の三セク運営の鉄道に乗る機会があれば是非、いろいろと情報収集を行ってください。

 この肥薩オレンジ鉄道は、JRから分離されるに当たり、熊本県と鹿児島県、沿線の市町、JR貨物の出資で三セク会社を設立し、運営にあたっているもので、1日4本程度貨物列車も通り、また熊本駅や鹿児島中央駅まで乗り入れるJRの快速列車も運行され、今年4月からは、JR九州の運行する「クルーズトレインななつ星in九州」も乗り入れています。
 日常は、沿線の高校へ通う生徒や高齢者の方が利用する生活路線で、ワンマン運転の1両立ての車両を中心に運行し、ラッピング広告された2両立ての車両も見かけることができました。
 さて、今回はこの肥薩おれんじ鉄道が運行する九州西海岸観光列車「おれんじ食堂」に乗車してきました。
食事とお土産付の観光列車で、通常のランチやディナー付の場合、大人21,000円という高額な料金にも関わらず、女性や高齢者層を中心に多くのお客様を集めています。
 さすがに2万円というのは大きな出費だったので、私は「乗車のみ」の切符(乗車券+1,400円の指定席券)を購入して出水駅から川内駅まで体験乗車してみました。
 2両編成の車両は、「ななつ星」の水戸岡鋭治氏がデザインし、全部で43席とゆったりとしたつくりになっています。
 新八代から川内まで乗車すると約4時間。
「ランチクルーズ」の場合は、新八代から川内までは、トマトのジュレや名産の「日奈久ちくわ」が前菜として出される中、6つの駅に停車し、数分間の停車時間を使って地元の和牛を使った「揚げたてカレーパン」、「スウィーツ」などのお土産との引換が行われています。
 私が乗り込んだ出水駅で、メインの食事や什器が列車に積み込まれ、揺れる列車の中で、次々と地元の特産品などを使った料理がお皿に乗せられ運ばれていきます。
 出水駅から川内駅間も、約50kmの区間を、いくつかの途中駅で停車しながら2時間かけての「旅」ですが、車窓からは田園風景や東シナ海を眺めることができ、阿久根駅ではこちらも水戸岡鋭治氏デザインの新しい駅舎に設け得られたショップで買い物を楽しんだり、他の停車駅ではお土産の引換があったり、薩摩高城駅では海までの散策を楽しめるプログラムが用意されていて、お客様を退屈させない工夫が随所に見られ、「たまにはこんなゆったりとした時間もいいか」と感じさせてくれる列車の旅でした。

 鉄道は「早く移動する手段」とばかり思っていましたが、客船ブームのようにゆっくりと移動することにもお金を払える時代になっているようです。
 今回、鉄道会社はもとより、地域の皆さんが地域の魅力を掘り起し、また新たな魅力を創り出し、市民レベルでのおもてなしも向上していく取り組みを進めているなど、沿線人口の少ない地域だからこその取り組みを感じることができました。
 福井県内でも、今後、並行在来線の三セクでの運営について議論が進んでいくと思いますが、「地域住民の足」という側面だけでなく、福井各地の良さを知る「旅の目的」となるような観光列車の運行も含め考えていく必要があるのではないでしょうか