診断士の視点

カンボジア進出、その魅力と可能性

2016.03.23 投稿川嶋 正己

カンボジア進出、その魅力と可能性

 今回のカンボジア(プノンペン)視察中に「この10年で一番伸びるのはベトナム北部、次の10年はカンボジア」という声を聞いた。
また「2030年にインドネシアやマレーシアに追いつくのは十分可能」という別の声も聞こえた。
 日本国内にいるといまだに内戦のイメージが抜けきらないカンボジアだが、何がプノンペンに駐在する国際機関の日本人にそう言わしめるのであろうか。
一昨年のベトナム(ホーチミン)、昨年のタイ(バンコク)視察との比較も踏まえて、カンボジアはそれだけの可能性を秘めているのか、アジアでの進出先としてどのような魅力があるのかを考察してみたい。

1.投資環境
 外資規制はタイやベトナムと比較しても最も緩い。やる気とお金があればどのような事業もすぐに始められる環境である。
外国人には土地の取得規制もあるが、カンボジア国籍は取得しやすいことなどから実質的には取得可能。
実際に長期にわたる内戦が終結した後、中国、韓国、ベトナム等の国々からの投資が急増している。
それらに比べると日本からの進出は出遅れ感があったが、3年ぐらい前から急激に活発化している。
その大半を占めるのは貿易業関係であり、個人でも簡単に起業できる環境と、カンボジアは消費財の生産能力が未整備で日常品の大半を輸入に頼っていること等がその要因と考えられる。

2.生産拠点として
現在のカンボジアを生産拠点としてみた場合、あらゆる面で惰弱な要素があることは否定できない。
(1)労働力
 現在の総人口は約1,500万人と1億人近くになるベトナムや2億5千万人にのぼるインドネシアと比べるとボリュームの少なさは否めない。
 質の面でも、内戦の影響でマネージャー層となるべき30代後半の人口が少ないことのほか教育の質が非常に低いことが問題。
知識人虐殺の影響で教育者がほとんどいなくなり、現在の教師自身の教育が不十分である。
 さらに、教師の給与が著しく低いためになり手が少ないことが大きく影響している。
現在のワーカー層の教育レベルは小学3年生程度と言われる。
今回の視察先でもこの点に関しての苦労は一様に聞かれた。それに対して賃金の上昇は著しく、質とのバランスを考えると現時点での投資先としての魅力に疑問が残る。
(2)インフラ
 カンボジア政府は34ヶ所の経済特区を設けて整備を進めているが、その内、日本企業の投資対象となる水準にあるのは8ヶ所程度と言われている。
一部を除くと社員の住環境整備などもまだまだこれからという感。
 また、国内の発電能力が不足していることなどから電気代は日本並みに高く、他のアセアン諸国よりかなり分が悪い。
(3)調達
 カンボジアでは縫製業以外の製造業の集積は貧弱であり、原材料や部品等、資材の調達はほとんど国外からとなる。
国内調達比率はアセアンでも最低レベルで1割に満たない。
 カンボジア政府も自動車や機械など裾野が広がる製造業の進出をターゲットにしているところである。
現時点では製造業が進出を考える上で最大のネックとなる要素ではないか。

3.物流拠点として
 日本のODA等によりタイ・バンコクとベトナム・ホーチミンを結ぶ南部経済回廊が繋がったことで、拡大かつ統合が進むアセアン経済の中での物流拠点としての価値は高まっている。
今後、物流の視点での投資が活発になることが十分に予想され、環境整備も急速に進むことが期待される。

4.消費市場として
 カンボジアの人口は約1,500万人、1人当たりGDPはアセアンの中でも最低レベルの約1,100ドルである。
表面上の数字だけを捉えれば消費市場としての魅力を感じられないかもしれないが、空港の正面にポルシェの販売店があったり街中ではレクサスが異常に目立ったりと、プノンペンの街だけを見ればホーチミン以上に豊かにも見える。
 土地の高騰などからプノンペンには富裕層が多く、日本食レストランも200を超えるとのこと。
イオンモールもオープンし、消費市場は活気づいている。
現時点での市場として捉えても、日本製の質のいい商品の市場としての魅力が感じられる。

5.中小企業の投資先としての魅力  
 例えば福井県などの地方中小企業が進出先としてカンボジアを見る場合、現時点ではどのような事業者にとって魅力があるかを簡単にまとめてみたい。
(1)生産拠点・物流拠点として
 生産拠点としては、多くの調達を必要としない、労働集約型の事業であれば選択肢に入るというところであろう。
特に、日本人以上とも言われる手先の器用さを生かせる業種にとっては魅力が感じられるのではないか。
 その他では、小型モーターのミネベアなどが大型投資を進めており、それら大企業の大型投資に付随してのアッセンブルなどであろう。
 今後の物流拠点としての魅力を考えれば、物流事業者が市場を求めて進出する魅力はあるであろう。
特に、日本のノウハウを生かし、日本からの進出企業等に対して安定感ある物流をアセアンで提供できれば、その存在価値は高く評価されるのではないか。
(2)消費市場として
 カンボジアで忘れてはならないのはアンコールワット。
アンコールワットは東南アジアで最も人気のある世界遺産と位置づけされつつある。
今後、日本からの注目もさらに高まると思われるが、それに対して日本人向けのサービスは他の先進観光地に比べればまだまだ未整備。
ツアーなどのサービス、飲食ともに十分可能性があると思われる。
 特に、カンボジアには現地産のお土産がほとんどない。
既に有名な成功例もあるが、カンボジア産で日本人向けのお土産開発・販売も有望であろう。

6.今後の成長の魅力
 25年前のマレーシアの人口が1,300万人で、ちょうど現在のカンボジアと同じぐらいであった。
それが現在の人口は3,000万人超、1人当たりGDPは1万ドルを超え、東南アジアで最も進んだ産業国になっている。
カンボジアにもそのぐらいの伸びしろはあると考えると、中長期的な投資先としての魅力は大いに高まる。
 カンボジアの現在の平均年齢は20代前半で、総人口・労働力人口とも今後急速に増加する。労働市場も消費市場も拡大する。
 物流に引っ張られる形で生産のインフラも徐々に整い、製造業の投資先としての魅力も思ったより早く高まる可能性がある。
不足する教育の質を民間レベルで補うための社員教育サービスのニーズも生まれるのではないか。
そこにも日本企業のチャンスがある。
 お札に日本国旗が描かれるような親日的な国であり、日本企業に対する国民の安心感は高く、労働力確保競争にも優位がある。様々な産業で可能性は生まれ、また拡大することが期待される。
 プノンペン駐在の諸氏が「プノンペンはアセアンで一番住みやすい街」と口をそろえるのは、カンボジアと日本の言葉にはならない親和性の現れなのかもしれない。
 カンボジア市場の拡大は日本企業にとって千載一遇のチャンスとなる可能性は高いものと期待される。

  • プノンペン経済特区のデンソーの工場
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  • イオンモールプノンペン
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  • アンコールワット
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